北欧の風、ボルボとの出会い。
初めてボルボ v50に出会ったのは、5月にしては日差しの強い日の午後だった。
ふらっと入った中古車屋で、シルバーの車体が使い込まれた銀食器の様な渋い輝きを放っていた。
今の仕事に就いて3年目、車がないと生活に不便な場所に引っ越して、必要に迫られて車を買う必要があった。仕事にも慣れてきて、社会人の遊び方も覚えてきた。
でも、3年目の春はいままでとは違った。人間関係の悩みが拗れて、自分自身が今の仕事に向いているのか、違う道があるのではないかとと模索する日々、まるで暗く永遠と続くトンネルの中を歩いている気分だった。そんな中でのクルマ選びは、正直あまり気の進むものではない。
車を買う、自分の中では、すこし大きな家電製品や、自転車を買ったりする程度の事だと考えていた。移動手段、日頃の足としての車。
そもそも、モノを買ったり、消費したりして自分が変わったような気がするなんて、幻想だと思っていた。まして外車を所有するなんて、コスパの悪いブランド志向の人の道楽だと思っていた。
だがその日は違った。人生の転機だった。シンプルに、この車に乗ってみたい!という興味が湧いてきた。日の光を浴びて、より眩しく見えたからなのかもしれない。
販売員が、このボルボに興味を持って眺めているに気づいて、試乗を勧めてくれた。
運転席に座ると、北欧家具のような自然の木を使った内装に、大きな本革製のシート。初めての車なのに、ただいま、と言っても良いような気がした。
なんだか、家にいるような安心感を感じた。
ボルボのエンブレムの入ったキーをひねる。ぶるん、音を立てて、車が目を覚ました。車のことは詳しくないが、子供達の鼓笛隊の太鼓の音のようなリズミカルなエンジンの音は心地が良かった。
町内を試しに一周して、初めて乗る車ではないような感覚だった。まるで自分の手足のようにコントロールできる。
ウィンドウを少し開けて走ってみる。
北欧の涼やかな風が、吹いた。
自分の買うべき車はこれだ。この車といっしょなら、今の苦難を乗り越えていける。そんな風に思った。予算はだいぶオーバーしたが、気づけばあっとゆうまに契約をして、初めての相棒になった。
それからの日々、仕事にも、プライベートにも張り合いが出てくるようになった。それはボルボのシートにいだかれる時間のお陰で、自分の心にすこしの余裕が出来たからなのかもしれない。
クルマ好きの話が高じてた縁で、新しい仕事の話も舞い込んでくるようになった。
オフの時間を愛車と過ごせるようになって日々にメリハリがついた。そのお陰か、歯車が整ったように仕事も順調に回るようになった。
この車で走っていると、色々な教訓を教えてくれる。終わらないトンネルはない。自分の道は、どこにでも繋がっているんだ、と。